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「居場所」の役割 ~なぜ居場所が必要か~ | プラッツからのメッセージ

石田貴裕

ひきこもる若者たちは、例えば性格的に真面目で素直で優しい人や大人しい人が多く、それゆえいろんなことに気が付いたり気を遣ったりして、苦しくなったりしんどくなったり。例えば、また一方でその真面目さゆえに完璧主義な面があったり、どっかプライドが高かったり、それでいてナイーブだったり臆病だったり打たれ弱いところもあったりして、結果、自信がなくなって人や社会が怖くなったり。

プラッツの「居場所」はそんな若者たちも含め、「何だかしんどいな~、何だか息苦しいな~」と感じている人たちがゆっくりできるための場所であり、ちょっと一休みしてエネルギーを溜めるための場所でもあります。

・居場所のテーマは「経験・コミュニケーション」

居場所のメニューは「コミュニケーション」「レクリエーション」「日常生活体験」の3つがあり、何気ない会話やゲームやスポーツ・アート・音楽・料理・掃除・買い物・イベント・旅行など、「遊び」を通して様々な経験や体験を、自分なりのペースで積み重ねていきます(強制ではありません)。

そこでのテーマは『経験・コミュニケーション』で、スタッフを含むいろいろな人たちとの日々の関わりを通じて、“ユル~い”幅から“濃い~”幅までの人間関係や社会性や他者に対する“慣れ”を身につけていきます。それは言い換えると自分なりの「現実調整」を行うということで、時間と共に例えば、楽しい事もそうでない事も、ノリで超えていける事もそうでない事も、たくさん経験しながらやがて“今の自分”のことを知り、そこから先の自分をイメージして動き出すための大切な期間でもあります。

自信のない若者がどうやって自信をつけるのか?それはひきこもり・ニート・不登校の経験や状態に関係なく、みんなと同じことをやるしかないと思っています。つまり、「経験」を「蓄積」して、それを周りの仲間や大人たちとの関わりで少しずつ「自信」に変えていくこと、それに尽きると思います。時間はかかるかもしれませんが、それが何よりの基本だと思いますし、スキルやHow to等その後いろいろあるのでしょうが、まずは“基本を知っておくこと”が、結果的に一番の近道だと思います。

怖いのは、目安や輪郭やとっかかりもなく“見えないもの”や“想像できないもの”に対峙すること、させられることなんじゃないでしょうか。もっと怖いのは“甘えだ怠けだ”と言われ、“もういい年齢なんだし気合と根性で何とかなるはず”と、一人で盲目的に放り出されることなんじゃないでしょうか。そんなの誰だって怖い。

・「居場所」の役割

居場所の役割は、そんな社会や人に対して若者たちが持つ漠然としたイメージ、ともすれば恐怖にも似たイメージ、すなわち“見えないもの・想像できないもの”を、「経験」というフィルターを通して“目に見えるもの・想像できるもの”というとっかかりのあるものへと転換させていくことにあります。親や他人に与えられた物ではなく、自分で物事を知り喜怒哀楽を感じる中で、例えばぼんやりとした輪郭だけでも見えたり、とっかかりになるものを見つけられれば、若者たちはなんだかんだ取り組み始めたりするんです。ただ、残念ながらこの「経験」だけは親にも誰にも肩代わりは出来ません。だから、居場所では“コケないように”ではなく“コケてからどう立ち上がるか”に重点を置き、いろんなことを経験した実感とともに少しずつ「自信」へと繋げていくことを目指します。そして、場合によっては“挫折体験”にもなりかねないその経験の数々を、場と人の力で“成功体験”へと繋ぎ、落とし込んでいきます。そうやって培って出来るだけ積み重ねた「自信」のタネを、いずれ踏み出す次のテーマ『自立・自活』へとさらに繋げていくために、まずはシンプルに「自分で考え、自分の言葉で話せるようになること」が、居場所支援の大きな流れの先にある目標の一つでもあります。

 ・獲得する大切な“3つのあいまいなこと”

最後に、居場所を通る若者たちが獲得していくもの、身に付けていくものは人それぞれ本当にたくさんあるのですが、代表するものとして3つを挙げます。一つは「打たれ強さ」、もう一つは「受け流す力」、3つ目は「グレイゾーンを受け入れる力」です。

来所当初はとても繊細で感じやすく落ち込んだり、時に自分や他人を責めたりもしながら、まずは居場所に来るのがやっとという状態でスタートする人が多いのですが、いつしか経験と時間と人との関わりが、若者たちのナイーブなガラスのハートをある程度「打たれ強く」し、コケては立ち上がる中で“エエ加減”での「受け流す力」を自分なりに編み出していきます。そして、白でも黒でもなく、0でも100でもない「グレイゾーンを受け入れる力」に取り組み始め、人で例えると“好き・嫌い”“得意・苦手”などはっきり二分したものではなく、“好きでも嫌いでもない人”“得意でも苦手でもないキャラクターの人”としてグレイな部分に置いておける感覚や、程よい距離感を持って人と接することができる力を身に付けていきます。

これらは目には見えにくく、数字にも残りにくい微妙で曖昧な変化ですが、実はこういう事が生きてくうえではとても大切な事であり、ひきこもり・ニートの若者に関わらず、ある意味これ自体が“生きる極意のようなもの”だと思います。同時に、居場所の必要性と役割とは実にこういう部分にあって、目には見えない曖昧な、でも必要な感覚や感情を獲得できる実用的かつ稀有な場だと感じています。

若者たちはそんな“曖昧だけれど大切な3つのこと”を自分なりに獲得していきながら、最初に居場所に来た時よりも、人や社会に対するしんどさや息苦しさを少しずつ緩和して、やがてそこからまた新しい「居場所」を創るようになっていくのです。

カテゴリー: スタッフエッセイ

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